オフショア大學に寄せられる質問例
Q1海外オフショア委託先との定例進捗会議で、いつもと同じように最新の「課題」を報告するよう求めました。ところが、いつもと同じように、海外オフショア委託先からは、適当にお茶を濁した回答しか得られません。 どう対策すればよいでしょうか?
ご質問の件は、古くから知られるよくある問題です。
例えば「いくつか小さい課題はありますが、これらはすべてこちら対応可能です。よって、今日は特に報告はありません」などが典型例。 日本語「課題」が外国語に直訳できない多義的な概念であることに留意しましょう。
言葉を厳密に定義する / カタカナ和製英語と本物の英語の違いに気をつけろ
オフショア企業を推進するある日本企業では、「課題」を様々なリスク要因だと認識していて、外部要因と内部要因とに大別しています。
一方、この会社のオフショア委託先では、外部要因を”issue” と呼び、内部要因を状況に応じて “cause” や “challenge” と呼んでいます。このように「課題」は多義的な用語です。
中国語と日本語の同形異義語に気をつけろ
「課題」や「問題」は中国語にも存在する同形異義語です。よって、進捗会議等で、これらを機械的に翻訳すると、前出の理由からコミュニケーション齟齬をきたす恐れがあります。
ちなみに、中国語「問題」には、problem と question の2つの意味があり、文脈によって判断するしかありません。同様に、英語 “question” にも、質問と出題の2つの意味があるのはご存知の通り。
Q2日本側はオフショア開発のために努力しているのに、海外側が日本のために努力する姿勢がほとんど感じられません。どうすればオフショア現地の技術者が日本側に歩み寄ってくれますか?
一般に、海外オフショア勢の方が、日本側よりも相手に歩み寄る努力を重ねています。特に言葉の習得と文化の違いを埋める努力は、オフショア勢の方が圧倒的に時間とコストをかけています。ただし、国や地域によって、相手に歩み寄る姿勢には温度差があるのも事実です。
中国
全ての技術者が日本語を学習。開発プロセスや評価基準も顧客要望にできるだけ沿う姿勢。規則よりも人間関係を重視する中国文化は、日本人顧客を意外に満足させることが多い。
ベトナム
基本姿勢は中国と同様。ただし、日本語の壁は大きいため、技術音痴の未熟な通訳/コミュニケーターによって、両国の相互協力の雰囲気が台無しにされることがある。
インド
日本語への対応は未熟で、かつ、積極性が感じられないことが多い。自社流の開発プロセスを頑なに貫く姿勢が目立つ。組織構造も日本企業とは全く異なるため、持続的改善の感覚が日本人とズレる恐れあり。一方で、オンサイト要員としてはバイリンガル日本人を起用、インド現地でも日本時間で稼働、日本都合の緊急事態であっても必死に残業対応、日本が祝日であっても現地では通常対応、等は有名。
Q3オフショア開発では日本側ばかり苦労して不公平だと感じます。日本とオフショア側では、どちらがより 相手側に歩み寄る努力をしていますか?
日本がオフショア側に歩み寄る努力とオフショア側が日本に歩み寄る努力をそろぞれ数値化するとよいでしょう。例えば「◯:◯」の比較形式。もちろん、あなたの主観評価で構いません。 オフショア大學では「言葉の違い/文化の違い/分散環境」の三要素に分けて、それぞれの歩み寄る努力の姿勢を数値化します。
- 日本対中国 =1:9(中国の方が圧倒的に努力している)
- 日本対ベトナム=2:8(ベトナム側の努力もなかなか)
- 日本対インド =3:7(下記参照)
インド側の努力は、主に「分散環境への対応」で目立ちます。インドは異文化理解の努力を重ねているつもりでしょうが、あくまでも米国を主眼においた「異文化対応」。そのため、日本人顧客からは「インド人は日本を軽んじている」と不評を買うこともしばしば。
Q4インドオフショア開発に着手した初期の段階から、英語が堪能な日本人(男性)がオンサイト要員としてインド側から当社に派遣されました。ところが、この日本人が、技術音痴の単なる英語屋であることは、誰の目にも明らかです。しかも、この日本人は、インド側で稼働するインド人技術者から軽んじているようです。この先、一体どうすればよいでしょうか。
オンサイト側の日本人がオフショア側の技術者から軽んじられる事例は、あちこちで確認されています。主な理由は2つあります。
- 1)日本人は技術力が低いから
- 2)日本人にありがちな「曖昧さ」や相手の気持を配慮した「遠慮や謙遜」が、弱さと誤解されるから
上記相談について、教科書的には「オンサイト要員の交替」が正解です。ところが実際には、親会社の意向など、相談者の口からは発せられない裏の事情が存在するため、安易な対策は功を奏しません。
Q5海外オフショア勢が日本の指示に従わず困っています。最も目立つのは、自分流コーディングへの強すぎるこだわりです。
自分流コーディングへの強すぎるこだわりる弊害はよく耳にします。一方で、品質保証や標準化などのマネジメント活動については、海外オフショア勢は意外なほど素直に日本側の指導に耳を傾けます。
コーディング
担当は若手プログラマ。コーディングだけは日本人に負けない自負あり。ただし、日本的商習慣の理解に乏しく、自分のコーディングが対象ソフトウェア全体に与える影響までは分析できない。すなわち、無知に基づく無邪気さから、自分流コーディングへの強いこだわりを示す傾向がある。
品質保証や標準化などのマネジメント
担当は経験豊富なリーダー以上がほとんど。日本語は達者で、かつ、付き合う顧客毎に異なる固有の商習慣も理解していることが多い。普段から、日本品質に一定の敬意を払っているため、顧客からの要望に対しては可能な限り応えたいサービス精神をのぞかせる。ただし、日本品質が必ずしも「好き」というわけではない。面倒だけど、「やるべき」との義務感で動く職業人としてのプライドが光る。
参考:オフショア大學コラムの過去のトピックより
for文の繰り返し制限数を明記すべきか
日本から中国子会社に提出したコーディング規約の中に「for文を繰り返さない」という禁止令がありました。ところが、中国側から、「何回か指定して頂けないと対応できません」と言われました。(アンケート結果あり)
レビュー時に指摘されなかったので今さら修正できません
オフショア開発でコーディング規約が守られません。もっともらしい言い訳をして修正依頼にも応じません。なぜ、中国では明確な規約すら守らないのでしょうか。(アンケート結果あり)
ソースコードのコメントに間違った日本語を見つけたら
あなたが日本側の受け入れ担当者なら、中国から納品されたソースコードのコメントに見つかった日本語の間違いを修正しますか。(アンケート結果あり)
怒っても効果なし、謝罪するが改善なし
コーディング規約を守らない中国子会社にご立腹・・・効果なし。開発連絡用の掲示板上で、規約を守らないのはルール違反だ、と怒りを示しました。リーダは謝りますが、次も同じことを繰り返します。怒っても効果はないな、と感じました。
ソースコードのコピペ爆弾
日系メーカーの中国現地法人で働くある日本人上司は、中国人社員がバグを「直す」のではなく「隠す」ことに苛立ちを覚えるという。例外処理を無視するだけならまだしも、バグ発生確率を抑えるお化粧プログラミング技法には、開いた口がふさがらない。
中間納品はお化粧されたプログラム
中国から完成したプログラムが納品されたので、日本で動作確認したところ、単純なバグがいくつも見つかりました。直ちにQ&A票で不具合を指摘しましたが、中国側の試験では問題なかったと一蹴されてしまいました。・・・ 納期が迫っていることもあり、中国での修正をあきらめて、全て日本側で対応することになりました。普段からお世話になっている日本の協力会社に急遽プログラマを増員してもらい、他人のソースコードのデバッグに明け暮れました。
日本でわざわざソースコード再検査
中国でコードレビューを実施済みなのに、その後に日本でもソースコード再検査を義務づける会社があります。現場では、やはり不評とのこと。あなたは、日本でのソースコード再検査に賛成ですか?(アンケート結果あり)
メソッドや変数を英語で適切に命名
データを取得するメソッド名称を決める際、英語の可読性がよい方の名称を選びなさい。
- (a) getData()
- (b) takeData()
誤った指示だと分かっていても、言われたとおりに製造する
ある中国人プログラマは、責任分担を意識するあまり、次のような行動に出た。仕様書が間違っていると確信を持った時でも、言われたとおりに製造する。もし、後から問題になっても、それは自分の責任ではないと、堂々と主張する。
Q6「転職率の高さ」や「人材流動でノウハウ流出」に悩んでいます。
オフショア大學には、海外オフショア委託先の人材流動に関する問い合わせが多数、寄せられます。社内研修後の質疑応答でも、必ずと「転職率の高さに悩む」や「人材流動でノウハウ流出」の声があがります。
しかも、ビジネス誌に載るような経営・戦略論ではなく、具体的な知識や事例、方法論が要求されます。現場で活躍する実務者を満足させないといけないので、質疑応答で一発勝負させられるオフショア大學講師陣は、いつも緊張の連続です。
この秋から来年3月末までに、オフショア大學には、複数の会社からオフショア社内研修の依頼が舞い込んでいます。社会人だけではなく、学生向けのブリッジSE養成講座も予定されています。誠にありがとうございます。
参考:オフショア大學コラムの過去のトピックより 人材流動に関する話題
人材流動の激しい中国メンバーと信頼関係を築く法
「信頼関係」の意味は、国や文化によって異なります。全く違う意味になることはありませんが、信頼の拠り所は歴史・宗教観、社会情勢に左右されます。
人材流動が激しい中国でITリテラシ教育は有効か?
被害にあった独立系ベンダーの現場をのぞいてみると、日本人はウイルスを警戒して怪しいメッセージを全て無視したそうですが、一部の中国人従業員が無防備に汚染されたファイルをクリックします。
なにせ、彼らは20代前半の就業経験の乏しい人たちです。知人から届いたメッセージには律儀に反応するそうです。
「お金」が最大の理由で転職
2010年11月現在、中国沿岸部の主要都市では、中堅SEの人材流動が高まっています。理由の1つは「オフショア開発量が増加」したために競合各社で人材争奪が激化するようになったから。ですが、これは、数ある要因の中の1つに過ぎません。
「キャリア機会の追求」に隠された本音
多くの中国人従業員は、学生の頃から勉強熱心で、職場でも技術力向上に対する強い執着心を持ちます。必ずしも、守銭奴のような「先に金ありき」の精神ばかりではなく、「大学で学んだ技術を即戦力として活かしたい」「寄り道せず一直線に上を目指したい」という内発的な動機要因も見逃せません。
転職する外国人よりも日本人の方がBSEに向いている?
短期の単発プロジェクトなら経験豊富な外国人バイリンガルSEを、長期継続が前提のオフショア開発なら国籍よりもコンピテンシー重視でブリッジSEを選定するとよいでしょう。語学力よりも将来性に着目した能力鑑定が成功の鍵です。
春節明けの人材流出リスク
日系メーカーの中国現地法人で働くある日本人上司は、中国人社員がバグを「直す」のではなく「隠す」ことに苛立ちを覚えるという。例外処理を無視するだけならまだしも、バグ発生確率を抑えるお化粧プログラミング技法には、開いた口がふさがらない。
3月チーム再構築の法則
毎年この時期は、日本の年度末納品にあわせた追い込みに追われます。一方で、年度末は、大量転職によるチーム力低下リスクが顕在化する時期とも重なるため、チームに残留した優秀なリーダーに対しては周囲の想像以上に負荷が集中します。
品質保証室は不人気
中国でコードレビューを実施済みなのに、その後に日本でもソースコード再検査を義務づける会社があります。現場では、やはり不評とのこと。あなたは、日本でのソースコード再検査に賛成ですか?(アンケート結果あり)
離職面接
データを取得するメソッド名称を決める際、英語の可読性がよい方の名称を選びなさい。
ミャンマー訪問記「転職しやすさの国別比較」
ある中国人プログラマは、責任分担を意識するあまり、次のような行動に出た。仕様書が間違っていると確信を持った時でも、言われたとおりに製造する。もし、後から問題になっても、それは自分の責任ではないと、堂々と主張する。
ミャンマー訪問記「現地企業のSEは頻繁に転職する」
元気一杯のミャンマー人技術者(ソフトウェア以外も含む)は、祖国で2-3年働くとすぐに海外に出稼ぎに行きます。なぜなら、海外では10倍以上の給与が簡単に手に入るからです。
ミャンマー訪問記「もしミャンマー人SEが離職するなら」
主力である25歳以下のSEは、学生時代に実機によるSoftware開発の訓練をまともに受けていません。よって、残念ながら、同世代の中国人SE(21歳~25歳)と比べて、基礎的な開発経験不足は否めません。
オフショア大學への質問
Q7オフショア大學の海外での実績を教えてください
- 中国
- 南京富士通南大、大宇宙、NEC済南、iSoftStone、山東大学
- フィリピン
- Fujitsu Ten Solutions Philippines, DENSO Techno Philippines
- ベトナム
- FPT Software, transcosmos TA
- ミャンマー
- NTT Data Myanmar, University of Yangon
- インド
- TATA Consultancy Services
- 韓国
- (社)釜山ユビキタス都市協会
Q8オフショア大學には外国人マネージャー/リーダー向けの教育コンテンツもありますか?
はい、外国人マネージャー/リーダー向けに多くの教育コンテンツが存在します。 お客様のご要望に応じて、随時新しいコンテンツを提供します。
Q9オフショア大學では、海外現地法人の改善指導についても相談に乗ってくれますか
はい、可能です。
Q10オフショア大學の教育コンテンツは中国語にも対応していますか?
はい、多くのコンテンツが中国語訳済みです。その豊富さにきっと驚くと思います。お気軽にお問い合わせください。
Q11オフショア大學の教育コンテンツは英語にも対応していますか?
はい、一部のコンテンツは英訳済みです。お客様のご要望に応じて、随時英語コンテンツを提供できます。
Q12先日受講した公開講座はとても有意義でした。講座の一部をカスタマイズして当社の社内研修として実施していただけますか?
はい、対応可能です。
その他の質問
Q13日本で情報通信業に就労する外国人はどれくらいいますか?
- 平成20年(2008) 18,030人
- 平成25年(2013) 28,062人
平成24年度にやや減少したものの近年は増加傾向。
ちなみに、出身国別の割合は以下のとおりです。インド人がランク外なのは意外。
- 一位 中国 53.6%
- 二位 韓国 16.4%
- 三位 米国 4.3%
- 四位 越南 2.8%
- 五位 比 2.4%
出所:経産省(2015)、IT人材ワーキンググループ(第1回)
Q14米国-インド間のオフショア開発の成功要因は何ですか?
従来、「英語」「契約・ドキュメント」「開発プロセス」などの要因が、米国-インド間のオフショア開発の成功要因として考察されてきました。よって、あえて、これら三つの要因以外について言及します。
米国では、ユーザ企業側にIT技術者が多いことに着目します(71.5%)。逆に日本はユーザ企業側にIT技術者が非常に少ないは有名(24.8%)。オフショア大學では、この差がオフショア開発の成否を決定する重要な要因ではないかと疑っています。